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先生
師匠シリーズ
幻想
2015年12月21日 16:46:11コメント:0観覧数:5735

先生 (10/10)

明日にもお世話になったシゲちゃんの家からおいとまするという日。僕は鎮守の森へ、一人で入っていった。

あいかわらず耳の痛くなるような蝉時雨の中、薄暗い葉陰の下を黙々と歩く。
神社の参道を横目に、道の奥へと足を進める。
雨がほとんど降らないので、柔らかい土についた足跡が汚らしく残っているのが目に付く。


778 :先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:16:23 4o0HgrnU0

みんな僕の足跡のようだった。僕はそれを見ながら思い出す。
あの日、初めてこの森を抜けた時、神社より向こうには誰の足跡もついていなかったことを。
よく考えるとおかしい。
先生が言っていたように、僕らの村と森の向こうの集落との間には、この鎮守の森を抜けるほかに道がないのであれば、
人の足跡がたくさんついているはずなのだ。
役場だって郵便局だって、森のこっち側にしかないのだから。
そんな綻びを見つけられないまま、僕は知らず知らずのうちに、この世の裏側に足を踏み入れていたのだろうか。

俯き加減で黙々と歩き続け、暗い木のアーチを抜けると青空が頭上に広がった。
同じだ。緑の畦道。畑。蛙の鳴き声。空を横切るツバメの羽の軌跡。
目の前の光景に一瞬目を細めて、そしてやがて気づく。
畦道に雑草が生い茂っていること。畑にも雑草が生い茂っていること。蛙の鳴き声はずっと小さいこと。
山の中腹に見える民家は屋根に穴が開き、とても人が住んでいるようには見えないこと。
そして同じことが一つ。電信柱も電線もどこにも見えない。
僕はふらふらと畦道を歩く。絡まる草を踏みつけながら坂道の前に着いた。
なだらかに続き、見上げるとその向こうには古ぼけた瓦屋根がある。汗を振り払いながら僕は坂を登る。
途中で振り返り集落を見下ろす。誰もいない。
動くものの影と言えばツバメばかりだ。所々に白い花が咲いている。
僕は広場に着く。校庭と呼ばれて、初めてそうであると気づいたはずの場所は、今はそう言われても分からない。
朽ちた木片が散乱する荒れ果てた広場だった。
そしてその向こう。僕が毎日見上げていた校舎は、黒く変色して酷く歪んでいる。
壁にはいたる所に穴が開き、ささくれ立った木片がギザギザに突き出ている。
向かって左下、小さな母屋があった場所には、焦げたような跡と瓦礫の残骸があるだけだった。
僕は目の前の光景が意味するもののことを考える余裕もなく、
ふらふらと夢遊病のように、玄関口に吸い込まれていった。

中はさらに酷い有様で、煤と穴と木切れの山だった。
下駄箱の残骸の横を通り抜け、靴のまま校舎の廊下に上がる。
蜘蛛の巣を払い除けながら階段に足をかけると、バキッと音がして底が抜けそうになった。


779 :先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:20:18 4o0HgrnU0

すぐに足を引っ込め、大丈夫そうな場所を何度も体重をかけて確かめながら、一段一段登っていった。
ボロボロの壁に手をついて、手のひらを真っ黒にしながらようやく二階に辿り着くと、僕は首をめぐらせる。
六年生と書いてある白い板はどこにも見あたらない。
ただ朽ち果てた木の床と壁が作り出す、灰色の廊下が伸びていた。
僕はゆっくりと歩き、いつか先生が手を振って迎えてくれた教室へ足を踏み入れる。
その瞬間、クラクラと頭が揺れた。
五つあり、先生がもう一つ運んできてくれたので、全部で六つになったはずの机は、一つもなかった。
ただ木の残骸が、教室の隅に無造作に折り重ねられているだけだった。
教壇には大きな穴が開き、黒板があった場所には煤けた壁だけがある。
なんだろうこれは。なんだろう。いったいなんだろう。これは。
そうだ。ハリボテなのだ。本物の上に被せられたハリボテ。よく出来ている。
これならみんな騙せる。じいちゃんだって、シゲちゃんだって、僕だって。
そしてこれから、それは勝手にすり替わるのだ。
本物の教室には先生がいて、僕の知らない遠い国の物語を話して聞かせてくれるのだ。

……なにも起きなかった。
僕はずっと待っていた。それでもなにも起きなかった。
ふと、窓の方を見た。折り紙の鶴でいっぱいだった窓には、もうなにもぶらさがってはいない。
足を引きずるようにそちらに近づく。
先生がいつも頬杖をついていた窓際に僕も立った。窓枠は腐ったように抉れていて、とても肘をつけそうにない。
僕は先生がいつも、ふいに遠くなったように感じたことを思い出す。
そんな時先生は、いつもぼんやりと窓の外を見ていた。思えば初めて会った時だってそうだ。
何度も先生を呼び、ようやく気づいてくれた時、ぱちんという感じに世界が弾けた。
その瞬間に、僕と先生の世界がつながったのだ。
先生はいつも白い花柄の服を着ていた。清潔なイメージにそぐわない、同じ服だったような気がする。
捨てられた校舎の中で、学校の先生の時間は止まったままだったのだろうか。


783 :先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:24:49 4o0HgrnU0

いつか珍しく雨が降ったことがあったけれど、鎮守の森を抜けると晴れていたということがあった。
小雨だったから、ちょっと不思議に思ったくらいだったけど、
たとえ嵐がやってきても、あの森の向こうは晴れたままだったのかも知れない。
ジワジワと蝉が鳴いている。どこか虚ろな声だった。
別の世界の気配はどこにもない。もう僕には見えない。見えなくなってしまった。
僕は立ち尽くし、ぼうっと窓の外を見ていた。
先生が見ていたものを、無意識に探していたのかも知れない。目の端に校庭の広場の隅が入った。
先生はいつもそこを見ていた。同じ場所を。あそこにはなにがある?
僕は振り向くと早足で教室を出た。ミシミシと廊下が軋んで嫌な音を立てたけれど、足は止まらなかった。
階段を半分壊すように駆け下り、玄関を出て広場に向かった。

廃材の山をスルスルと避けながら、その隅っこにひっそりと立つ木の根元に走り寄った。
かつて花壇があったのだろうか。黒い土が盛られている一角だった。
その土の上に木の板が一本突き立っている。
それがまるで墓標のように見えて、胸がドキンとした。
板にはなにか書いてあったが、雨で流れたのかもう読めなかった。
僕は木切れを拾ってきて、土を掘り始めた。
真上に昇った太陽が僕の影を地面に焼き付ける。ポタポタと汗が落ちて、それがシュンシュンと土に吸われる。
掘り返された土が周囲に盛られて行く中、木切れの先になにかが当たる感触があった。
膝をつき、両手で土を掘る。指の先に触れたものは、頭をよぎったような白い骨ではなかった。
ボロボロになった布袋が、土を被って現れてきたのだ。
口のあたりをつまみ上げ、土を払おうとした途端にボソボソと布袋の底が抜けて、黒く汚れた中身が地面に落ちた。
それは折り紙だった。折り紙の鶴だ。ぐしゃぐしゃになり、ぺったんこになり、土にまみれて色あせた鶴だった。
その時、こみ上げてきたものに耐えられなかった。

誰もいない廃墟のような校庭に立っていた。
幻も見えなかった。なに一つ見えなかった。どうしてもう見えないんだろう。
けれど僕は想像する。そこにいるつもりで想像する。
僕のそばに先生が立っている。透明になって立っている。僕の肩に手を置いている。
困ったような、はにかんだような、優しい顔で。
風が顔に吹き付けて、それは消える。綺麗に、跡形もなく。
涙を流しきって、僕はぼやける視界で手元を見る。
千羽はいないけれど、千切れかけた糸にぶら下がってたくさんの鶴が揺れていた。
その中に、僕は不思議なものを見つけた。
それは不格好に歪んでいる鶴で、胴体は傾き、顔なんか横を向いてしまっている。
けれど一つだけ、たった一つだけ格好いい部分があるのだ。
僕は手を高く上げ、その鶴の、戦闘機のように端がくいっと立っている羽を空に翳して、切っ先が風を切る音を聞いた。
夏の終わる匂いをかいだ気がした。


784 :先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:26:15 4o0HgrnU0

そっと、辞典を閉じる。
小さなころの記憶が夢のようにあふれて、そして消えていった。
辞典を本棚に戻し、大学の図書館にいたことをようやく思い出す。
柔らかい床が色んな音を吸い取って、あたりはやけに静かだ。
少しのあいだ目を閉じて、ゆっくりと大学生の自分を取り戻す。
ふと、シゲちゃんはどうしているだろうかと思った。随分会っていない。相変わらず親分をしているだろうか。
洞窟の顔入道も笑ったままだろうか。
その奥の、誰も入れない密室の中にいるというお坊さんの即身仏は、今も山に彷徨う死者の霊を弔っているのだろうか。
あのころのことを思い返すと、不思議なことがまだいくつかある。
先生の年代であれば、高校から大学へという学歴がおかしいのだ。
おそらく、高等女学校から高等女子師範学校か、女子大とは名ばかりの私立学校へ上がったのではないかと思うのだが、
そのころの僕の思っていた、高校、大学という言葉で通じていた、というのがよく分からない。


785 :先生  後編 ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:27:54 4o0HgrnU0

ほかにも時代的な素地が違うため、きっと噛み合わない部分があったはずなのだ。けれどそんな覚えはない。
会話はスムーズだったと思う。
もしかすると、交わしたと思っていた会話さえ、本当は存在しなかったものなのかも知れない。
ただつかのま、うつろな世界のはざかいで、魂が触れあい、重なり合い、そして響きあっただけなのかも知れない。
その小学校最後の夏休みが終わり、新学期が始まった時、
僕は算数の成績がぐっと上がっていて、担任の先生を驚かせた。
もっと後で世界史を習った時には、もう忘れてしまっていたけれど。
ふ、と笑いが漏れる。
本棚に戻した辞典の背表紙を見つめる。
全く関係のない調べ物をしていたのに、
ふと目に止まった頁に、長い時間を隔てた最後の謎の答えがあっけなく転がっていた。
そしてそれは、僕をひと時の追憶の彼方へと誘ったのだ。

【結核】 学名tuberculosis
結核菌によって引き起こされる感染症。呼吸器官やリンパ組織、関節や皮膚など発祥する器官は多岐にわたる。
なかでも代表的な肺結核は日本においては古来より労咳と呼ばれ、罹患者も多く死病として恐れられていた
…… 中略 ……
医師の使用する略称であるTB(学名から)が民間においても広まり、隠語的にテーベーと呼称されることも……

あの日の教室で、アテネをアテナイとしないのに、テーベだけをテーバイと書き直した先生の重く沈んだ背中が、
昨日のことのように瞼の裏に蘇る。
あの時の先生は、自分が幻であることを知っていたのだろうか。
そして幻を見ている僕のことを、どう思っていたのだろう。
あれから何度か別の年に、鎮守の森を抜けてあの廃校に足を向けたことがある。
けれどただの一度も、先生には会えなかった。


786 :先生  後編 ラスト ◆oJUBn2VTGE:2009/09/04(金) 23:31:03 4o0HgrnU0

また会いたいかと言われれば、今では躊躇してしまう。
先生に言われたとおりに、目を開けていられたかどうか不安なのだ。
あのころの僕が思っていたよりもずっと、あまりに底知れない悪意がこの世には満ちているのだから。
中学三年生のころ、あの廃校が取り壊されたという話を聞いた。
大規模な工事で、大きな道が抜けたらしい。あの捨てられた集落を飲み込んで。
僕がその場に埋め直した折り鶴たちも掘り返され、そしてもっと深く埋められてしまっただろうか。
僕はあのボロボロの折り鶴の中に、埋もれるようにして一枚の紙が混ざっていたことを思い出す。
それはどこかで見た筆跡で、詩のようであり、誰かへ宛てた手紙のようであった。
僕はそれだけを持ち帰って、やがてその紙で折り鶴を作った。
実家に帰った後、しばらく僕の部屋の窓際に吊されて揺れていたけれど、いつの間にかどこかへ行ってしまった。
幼き日の記憶のつどう、リンボ界のどこかへ。

目当ての本を探し当て貸出しの手続きをしてから、それを小脇に抱えて図書館を出ると、
顔が切られるような冷たい風が吹き付けてきた。
真冬だった。
すっかり夏のような気がしていたのに。
僕は苦笑して、コートの襟を寄せた。
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